夏の化身誕生
空へ!
ヒャクニチソウに集うクロアゲハ |
幼虫の頃は、ひたすら、食べて眠るだけ。 食餌の植物によく似た体色で、目立たぬよう、ひっそりと生きる。 臭い匂いを出す触角は、動きの鈍い幼虫の、唯一の保身術。 写真は、現在育っている、ナミアゲハの第二期幼虫 |
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7月8日に蛹になってから12日目 この写真は、残る一体のもの。 蛹の頭部、黄色で記したところが割れ、蝶が出てくる。 |
気が付いた時、私の周りは、ただ、ぼんやりとした緑色。
食べて、眠り、目が覚めると、また食べる・・・ただそれだけ。
自分の他に誰かが居るのかなんて判らない。
・・・そんな時間が、どのくらい過ぎただろう。
「さあ、行け!」 カラダの奥から声がする。
どこへ? 私、ほとんど見えないし、足だって、こんななのよ?
けれど、声には逆らえない。
風通りがよくて、あまり日の当たらない場所を探さなければ。
周りが真っ暗になってから、手探りで、少しずつ歩いた。
それは、途方もない、長い長い時間。
一晩中歩いて着いたそこで糸を吐き、自分のカラダを支える。
意識が朦朧としてきた。
ああ、カラダが溶けていく・・・
動けなくなって、どれだけの時が過ぎたのだろう。
ぼんやりと見える外は、光りに満ちている。
ここから出るんだ!
全身に力を込め、頭を突き出した。
外が見える! 初めて見た世界は、なんて明るいのだろう。
気付けば、長い足が、しっかりと枝を掴んでいる。
背中には、大きな羽があった。
伸びた羽を、ゆっくりと動かしてみる。
フワリ・・と、カラダが宙に浮いた。
私は、大きな羽で力いっぱい羽ばたいて、夏の空へと舞い上がった。
ようやく蛹になっても、外では、肉食性の蜂などに狙われる。 危険を避けるのと見やすいように、枝を切って、割り箸に継ぎ、 台所に置いてあった。 昨夜、蛹が黒くなっていたのに、今朝、まだ羽化していない。 透けた蛹の皮から、蝶のカラダが見える。 これは気を付けてないと、また、ちょっと目を離した隙に出てしまう。 ・・・とか思いながら、昼食のゴーヤを切り終わり、ふと見れば、 もう全身が出ているではないか! この時、午前11時半頃。 ああーっ! また、肝心の瞬間を見逃した。 蝶を傷つけないように、注意深く&急いで外へ出し撮影開始。 ここまでするうちに、縮れていた羽が、もう伸び始めていた。 |
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腹部も蝶らしく細くなり、ほとんど羽が伸びた。 全身真っ黒に近い、クロアゲハだ。 |
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不安定だったのか、場所移動 途中、風で羽が煽られ、直角にクタっと折れたので心配だ。 |
全く!
どうやったら、あの幼虫が、こんな姿に変わるンだ?
突起のような足は、すらりと長くなり、背には大きな羽、口はストローのように変り、
大きな複眼は、紫外線さえ捕らえるという。
ただ這うだけだったイモ虫が、誰に教えられることなく。
幼虫は光りを感じる程度で、目は、ほとんど見えない。
鳥やこうもりは、飛ぶために、前足を犠牲にして進化したけれど、昆虫は違う。
そして、変態して成長する様は、地球上の他の生物と比べ、あまりに違い過ぎることから、
昆虫は、地球上で生まれたものじゃないという説があるとか?
それにしても、自分のカラダが激変するのは、一体、どんな気分なのだろう?
昆虫には、そんな知能が無いと言ってしまえばそれまでだけど。
まだ柔らかい羽は、少しの風で煽られる |
普通はこの状態 |
一時間ほど経った頃、写真を撮ろうと近付くと、 フワリと飛んで、下方の石に留る。 |
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また場所移動 すっかり伸びた羽を乾かしている。 3時少し前までこうしていた蝶を、撮ろうと近付いたのを期に、 フワフワと舞い上がり、庭をひと回りして、屋根を越えて行った。 人の手が入ると失敗することが多いので、飛べてよかった。 |
翌朝、同時に蛹になった、もう一体が羽化。
母が、ちょっと目を放したら、もう出ていたらしい。
蝶は、元気よく飛んで行った。
羽に、白い筋模様が目立つ。 | 同じ種類でも、柄が違うのは、多分、雌雄の差だろう。 どちらがオスなのかと問われても、私には判らん・・・ |
夏の空が、生まれたばかりの蝶を迎える。 あちこちを舞うアゲハが、ある日を境に、ぱたりと姿を消す。 それは、残り少ない夏が終わったとき。 そして、季節は繰り返す。 何度も、何度も・・・ 別編目次へ戻る |
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